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「2027年までに台湾有事への備えを」アメリカが作り出した“時代精神”とは…日本を取り巻く「安全保障の現在地」

2024/04/19
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「同盟国に核を配備すれば…」

 また、この幹部はタイフォンが運用するミサイルについて「間違いなく通常弾頭だろう。核弾頭は考えられない」と語る。複数の関係者によれば、米軍は当初、タイフォンをグアムやハワイの米軍基地に配備し、訓練などの機会を通じて日本、韓国、フィリピン、豪州、シンガポールなどに展開する構想を持っている。そのうえで、在日米軍や在韓米軍などに配備する可能性があると言う。

 同幹部は「同盟国に核を配備すれば、様々な反発を招きかねないし、アジアにおける米国の同盟国は、すでに大半が中国のミサイル射程内に入っている。陸上配備型のミサイルは、(敵の攻撃に対する)ぜい弱性が問題になる」と指摘する。

バイデン米大統領と岸田首相(バイデン氏のXより)

米軍が目指すものは?

 タイフォンの配備だけでは「米中ミサイル・ギャップ」は解消できそうにない。日本の安全保障専門家の一人は、「米軍はSLCM(潜水艦発射型巡航ミサイル)の配備を目指すのではないか」と語る。トランプ政権は18年に発表した「核戦略の見直し(NPR)」で、核を搭載したSLCM-Nの開発を盛り込んだが、バイデン政権は22年に公表したNPRでSLCM-Nの開発を放棄した。「核への依存を減らす政策の象徴」として扱われたとみられる。

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 ただ、SLCM-Nは潜水艦発射型だから、秘匿性も残存性も高い。潜水艦の運用次第では、中国にもロシアにも北朝鮮にも使える。米軍内部にもSLCM-Nの復活を望む声は高いという。トランプ氏が今年11月の大統領選で勝利すれば、再びSLCM-Nの開発が復活する可能性は高い。

 また、日米両政府は昨年10月の防衛相会談で、日本が反撃能力の柱として期待するトマホークの日本への導入を、1年前倒しして2025年度から始めることで合意した。当初は、26、27両年度に最新式「ブロック5」(射程1600キロ)を最大400発導入する計画だった。このうち、200発を一世代前の「ブロック4」に切り替えて25年度から購入を始めるという。

自衛隊に不足している能力

 ただ、日本・自衛隊には、目標を発見し、攻撃手段を選択し、攻撃した後に結果を判定する「ターゲッティング」能力が不足している。米戦略国際問題研究所(CSIS)のクリストファー・ジョンストン日本部長は昨年4月の時点で「情報収集や偵察、目標選定や相手の損害評価については、当初はほぼ米国の能力に頼ることになる。この分野で実行力を持つには時間がかかるだろう」と語っていた。

 自衛隊幹部の一人は「日本が購入するトマホーク400発は、米中ミサイル・ギャップを埋める手段の一つだろう」と語る一方、「日米が同盟軍である以上、米軍の指揮命令を受けて、自衛隊がトマホークを発射することはありえない」と強調する。今回の日米首脳共同声明では自衛隊と在日米軍の指揮統制機能の強化がうたわれたが、米韓連合軍のように指揮官を1人にするというわけではない。