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「あそこだけはすぐOKでした」岩下志麻が語る、小津安二郎に評価された“特別”なシーン《生誕120年》

「あそこだけはすぐOKでした」岩下志麻が語る、小津安二郎に評価された“特別”なシーン《生誕120年》

2024/04/29
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小津安二郎監督の最後の作品『秋刀魚の味』に主演した岩下志麻さん。小津監督の生誕120年を機に、岩下さんに思い出を振り返ってもらった。(聞き手 平山周吉・雑文家)

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小津監督に「どうして結婚なさらないんですか」

 ──岩下さんは昭和37年(1962)に小津安二郎監督の最後の映画『秋刀魚の味』で主演されましたが、その後に「婦人倶楽部」(昭和38年3月号、講談社刊)で、対談もされています。小津監督ときちんと対談した俳優さんは岩下さんだけで、いかに特別な存在だったかがわかります。

 岩下 その対談が私、記憶にないの。不思議ねえ。よっぽど緊張していたのかしら。若かったんですね。

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岩下志麻さん(本人提供)

 ──小津監督の1月25日の日記には、「晴 婦人倶楽部 岩下志麻他くる」とありますから、間違いありません。北鎌倉の小津監督の家で撮影と対談が行なわれています。

 岩下 対談記事を読みますと、私がズケズケと質問しているんですね(笑)。「どうして結婚なさらないんですか」とか、「家庭が嫌いだからなんですか」とか。ずいぶんすごいこと、先生にうかがってしまったんだって。この対談のコピーは大事に保管しておきます。

 ──対談の後、小津監督は新年の松竹監督会があって、吉田喜重監督に酒の席でからんだという伝説の夜になるんです。

 岩下 ああ、有名な話ね。

 ──岩下さんが4年後に結婚する篠田正浩監督も同席していて、酒に酔った小津監督を送り届ける役を押しつけられていますよ。

 岩下さんはまず昭和35年(1960)の『秋日和』にちょこっとだけ出演していますね。

 岩下 私の3本目の映画です。その前に篠田の『乾いた湖』で主役だったので、篠田は小津監督から岩下志麻はどうかと、聞かれたそうです。「すごく正確な芝居をする子ですよ」と篠田は答えたそうです。